シアタードラマシティで上演されている井上ひさし追悼公演『黙阿彌オペラ』を観ました。

作:井上ひさし  演出:栗山民也

とら/おみつ:熊谷真実  河竹新七:吉田鋼太郎
五郎蔵:藤原竜也  円八:大鷹明良
久次:松田洋治  及川考之進:北村有起哉
おせん:内田慈  陳青年:朴勝哲

本来は、今年の4月に亡くなった井上ひさし氏の新作『木の上の軍隊』を吉田鋼太郎藤原竜也北村有起哉の三人で上演する予定だったのだが、井上氏が執筆を断念せざるを得なくなり、その代わり氏が「黙阿弥オペラを」と望んだため、今回の上演となったそうです。結局井上氏は公演の前に亡くなられて観ることはできなかったのですが・・。でも今回この作品を観て、何故井上氏が今、この時勢に、この作品を選んだのかが良く分かった気がします。

江戸時代の狂言作者河竹新七が、未だに芽が出ず絶望して身投げしようとした幕末から、「黙阿弥」と屋号をつけて引退を決意した明治初期までを描いた作品。
河竹新七とは、歌舞伎の筋を書いていた実在の人、代表作には『三人吉三』や『白浪五人男』、『魚屋宗五郎』、『髪結新三』などなど今でも大人気でよく上演されてるものばかり。世話物かかせりゃそらもう凄い!ってお人です。七五調ですらすらと、まるで歌うかのように出てくる名台詞の数々を作り、明治の新時代になってもそれに勝るものは無いと言わしめたお方です。

嘉永六年師走晦日の吹雪の晩に、江戸柳橋にある蕎麦屋「仁八そば」に二人の男が駆け込んでくるところから話は始まります。お互い人生に絶望して、同じ橋で隣同士で身投げをしようとしたのですが、「之が最後だどうせなら人助けを」と思いお互いがお互いを止め合う形になり、踏ん切りがつかなくなり吹雪で震えながらも蕎麦屋に駆け込んできた河竹新七と五郎蔵・・・。


出演者がほんまに上手い。芸達者ばかり。一人一人が笑いを起こせるし、一人一人に引き込まれていく。テンポも良いし、台詞の数々が爽快爽快。あと、随所に歌舞伎の名場面、名台詞がちりばめられてます。例えば、久次が登場してくるとこ。初めは商家の番頭だか使用人だかで気品というか上品な商人で出てきたんだけど、途中で実は罪人であるってことがばれてしまい、ばれちゃ仕方ねえと、かっと啖呵切って自ら正体明かすとこは『白浪五人男』の弁天小僧が正体バラしてくとこに似てるよなあとか。三人吉三のお嬢吉三が言う名台詞「月も朧に白魚の、かがりも霞む春の空・・・」って台詞を実際に五人の男が並んでそれぞれ気持ちよく台詞を言ったり、オペラ調にカルメンに載せて歌ったりと、そこでするか!って言うくらい随所にあります。でもちょっと情けなかったり、面白おかしくなってたり・・。もっとちりばめられてたんだろうけど、私が知ってるのがこの二つくらいなもんで笑
それと、最後明治年間に入って黙阿弥に政府から、オペラ劇を作ってくれ、それは天子様やアメリカの前将軍も来る、一世一代の大仕事だ、という要請がきた件の黙阿弥の台詞の中に「その劇を誰のためにするのか?お客さんが取り残されている。政府のために芝居を作っているのではない・・大衆のために・・云々」って感じの部分があったんだけど、そこを聞いていたら、まさに今の政治にも言えるよなあとひしひしと思いました。国民を見ずに自分たちのためだけに今の政治を行っている政治家がいて、それが今取りざたされている。だから井上氏はこの作品を上演してくれと言ったのかなと思いました。・・・ちがったらはずかしいなw

三人吉三。これは演出が変わってるみたいだし、大詰めの部分だけど・・。


吉田鋼太郎が上手すぎる。演劇とはを語る時の気迫が凄い。あと、藤原竜也があんな汚くて人間臭い役するの初めてみたよ。

本当にいい芝居を観ました。良かった。