映画『任侠ヘルパー』

草磲剛主演映画『任侠ヘルパー』を観ました。

指定暴力団「隼会」を抜け、堅気となった元極道者・翼彦一(草なぎ剛)はコンビニで働きながら細々と暮らしていた。ある日、金に困って強盗に入ってきた元極道の老人・蔦井雄三(堺正章)を見逃したことから刑務所送りになった彼は、獄中で蔦井と再会。元極道であることの生きづらさを感じていた彦一は、出所後、その老人のツテを頼って「極鵬会」組長・朝比奈道俊(宇崎竜童)を訪ね、そこで再び裏の仕事に手を染め始める。その仕事は、老人相手の闇金とその闇金で破産した老人たちを「うみねこの家」という老人介護施設に入れ、生活保護や年金をせしめることだった。なんの設備もなく、悪臭漂う最悪の環境の中で生活する老人たちを見ながら、最初は淡々と仕事をこなしていた彦一だったが、次第に老人を食い物にする状況に苛立ちが募るようになっていく。そして遂に彦一は「うみねこの家」の立て直しを決意。だが、貧困ビジネスを目の敵にする市議会議員・八代照生(香川照之)と、老人を金づるとしか思わず、施設の改善など意に介さない極鵬会が彦一の前に立ちはだかるのだった……。

2009年に連続ドラマとして放送されていた作品の映画化です。連続ドラマ時代は微塵も観ていませんでした。何が何だかで最後翼彦一がどうなったかなんて知りません。知っているのはこれが草磲剛の復帰作だと言う事くらいです。

正直なところ、テレビ局制作の連続ドラマからの映画化って期待しておらず、寧ろ劣化することが多い昨今(踊る大捜査線やSPECが最近では良い例ですね)の状態を観ていればそうなってしまうのはいざ知れず。割り切って観ました。以下感想。

号泣しました。映画を観て、人が死んだりしない(所謂狙っているもの)作品で、自然と涙があふれてあふれて最後は画面が見えないほど泣きました。泣き笑いかなあれは。草磲剛、恐るべしです。本当に凄まじいというより、誰だあなたは、と思うほど普段の彼とは程遠い、少し昔のとがっていた頃の彼に似ているかしら・・・と思わせる欠片はあるのですが、世の中のイメージする『良い人、草磲剛』からは程遠い。泥臭くて不器用で無様で・・・・等身大の人間の姿がそのスクリーンには溢れていました。こういったヤクザものの映画ってとにかく格好良く描こうとするのですが、兎に角この作品は人の本来の姿を見せようと、していたと思います。ただ言えることは格好つけた格好よさではなく、必死さからくる格好よさが溢れていました。またその脇を固める香川照之、安田成美、風間俊介夏帆・・・それぞれもまた不器用で格好悪くて生きることに必死で。でもそれが物凄くリアリティに繋がっている。映画という制約された中できちんと脇の人たちの姿も描かれていたことも好印象でした。

中盤の翼彦一の転換点となる、安田成美が演じる蔦井葉子が母親を介護施設から連れ戻すシーン、ここが一番泣きましたね。母親を施設に入れるまでの、蔦井葉子の葛藤や苛立ちが丁寧に描かれて、それが蓄積されて、漸く施設に入れたと思ったら、想像外のグレーゾーンな施設に驚き怒り、母親を自宅へ連れ戻す、なにもかもが上手くいかなくて、生活も苦しくて、ようやく手に入れた平和もすぐにまた壊れて、どうしようもなく行き場も無く・・・っていうことがあの軽トラの鍵をまわすシーンに全てつぎ込まれていることにセンスを感じます。本当に泣きました。映画で自然と泣いたのは久しぶりでした。ここから彦一さんは蔦井葉子のためにも動き出すんですね。

好きなシーンというと、上記のシーンもですが、翼彦一が蔦井葉子の母親に窓辺から手を振るシーンも良いですね。あと、終盤の殴り込みのシーンで逃げる時に黒木メイサが来たときは心から「来たあああああ!助かったあああ!」と思いましたし、そのあと風間俊介と二人でママチャリに乗って逃げるシーンも、何とも言えない格好悪さが好きですし、最後の一人で組に立ち向かうためにぼろぼろになっても歩き出す所も好きです。足引きずりながら歩いて、煙草取り出して口くわえて箱は投げ捨て、更にライターで火を付けてからライターも投げ捨て、一口吸ってから煙草も投げ捨て・・・っていうところは草磲剛史上最高に格好良いです。あとそのあとの香川照之の登場から組のボスに言い放つ所も格好良いのに格好悪くて良いですね。此処の一連は私が観てきた映画の中で一番好きなシーンかもしれない。

この映画の草磲剛を観ていて、ふとその後ろ姿が流れたときに、かつて色々な方面から言われた「高倉健に似ている」という言葉や「腹に魔物を勝っている」という言葉を思い出しまして。つかこうへいが言ったのかな。当時はどういう意味なのかというか、その真意がまったくもって汲み取れなかったのですが、今回この映画を観て、その言葉の意味を初めて理解できた。本当にその言葉通りの役者に草磲剛はなったと思う。彼の代名詞となる作品であると私は思います。この映画は、凄い。

取り上げているテーマも「介護問題」という現代社会からは到底避けて通れない問題でして。私一応介護業界の端っこに身を置くものとして、どうなのかなとそういった視点からも観るようにしたのですが、確かにグレーゾーンと言われる所は多く、また独居老人や身寄りのない老人が多かったり、介護者である家族の負担もとても多くて家族が疲弊しているケースもあるんですね。施設に入れようにも待機者が多くて入れなかったり、例えば入院していざ退院するけど介護が必要、でもその介護状態からして施設には入れない、訪問でも見れない、家族では対処できないとかそういった問題もあったりと色々とあるんですよ。生活保護受給者が多いのも事実だし。だからどうしようもなくてああいったグレーというか真っ黒な所にでも押し込んでしまおうという心理が働くのは理解できる。実際あるのかと言われたら、監査とか入るからどうなんだろうと思ったのですが。この作品そういった一連の問題を取り上げ、それを「自立支援」というところに導いているところが凄いなと思いました。ヘルパーが全部の世話をするのではなく、出来ることは本人にしてもらう。そういった取り組みが今されているのでそこを取り上げるのは面白いなと。(まぁ端くれが何言ってんだって思われるかもしれないですが)そういった社会的な問題も取り上げている邦画って中々無いので、そういった意味でも観てもらいたい映画です。

そういや彦一さん、今回ヘルパーっていうよりはただの管理者でした。

此れを観たのは11月の末だったのですが、なんで今になって記事を書いたかというと、日本アカデミー賞のノミネート作品とか色々見て、ふざけんなって思ったからです笑 まぁジャニーズ主演というところから主演男優賞とかにノミネートすることはあり得ないと理解していたので・・・・。でもせめて作品賞とか監督賞とか・・・ねえ。これを選ばずにただの一辺倒な娯楽作品が羅列されているのを観て辟易としてしまって書いてみたというのが理由です。twitterにいる映画好きとか言っている人にも余り相手にされてないような雰囲気だったし・・・悲しいかなこういったすばらしい作品がほかのごみくずのような作品の中に埋もれていってしまう・・・。スマステの月一ゴローでも取り上げて絶賛して欲しかったのですが、奈何せんSMAPさん非常に忙しい時期の封切りとなってそれが叶わず・・・。なんとか外国の映画祭とかで紹介されたりしないかな・・・と思うのです。「HERO」や「西遊記」のように。あれが出来て此れが出来ない理由がない。北野映画でヤクザものって結構浸透してると思うし。でもなんかねえ。なんだろう、この宣伝の少なさは。なにか事情があるみたいな話もちらっと観たのですが。だったら書くしかないと思いまして筆を取りました。
もし観ていない方がいれば是非見てほしい。絶対に裏切らないです。